バッハの音楽は非常に数学的である

 バッハの音楽は非常に数学的である.バッハの作品は単純なテーマに転調,音型の展開,左右の反転,平行移動,音符の長さを2倍ないし1/2倍にするといった操作を施すことによって作曲されていることが多い.数学的にはこれは集合に群を作用させることに他ならない.バッハの1つの作品に含まれる音符の集合Xを考える.上に述べた操作を詳しく述べると次のようになる.

属調に転調する これは位数12の巡回群である.属調に12回転調すれば元の調に戻るということである.下属調に転調することは11回属調に転調することと同値.
同主調に転調する 短調から長調及びその逆であり,位数は2である.尚長調から短調平行調に転調することは,3回属調に転調してから同主調に転調することと同値.
音型の展開,左右反転 明らかにそれぞれ位数2.
平行移動 平行移動する単位は小節とは限らないので位数は∞.
音符の長さを変える 「2倍する」という元で生成される位数∞の巡回群である.

 上の生成元から生成される群(アーベル群)GをXに作用させて軌道分解すると,テーマからなる同値類に分かれる.逆に言えば,バッハの作品はテーマの集合をYとするとX=GYによってほぼ作られる(「ほぼ」と書いたのは「繋ぎ」が必要だから).このように小数のテーマから複雑で深い作品を作ること自体,小数の公理から壮大な定理を導くという数学的営みに酷似している.

http://www.tokyo-s.jp/authors/a-toda/